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第1章 この調査の目的と方法

田嶋淳(株式会社三陽社)

EPUB3.0の規格策定から既に10年以上が経過したが、まだEPUBの制作現場では2015年に最終アップデートがされた電書協EPUB3制作ガイドに準拠した形でEPUBを作ることがほとんどであり、新しく規定されたCSSプロパティの使用などはほとんど行われていないように見える。この原因として実制作物をEPUBビューアで表示確認することのハードルの高さがある。Webブラウザと違ってEPUBビューアは外部のEPUBデータを取り込んで表示することに対応していないものも多く、外部データを表示できたとしてもストアで実際に販売された際とは異なる形で表示されてしまうこともある。

また、ストア運営会社に表示対応の状況を問い合わせるにしても、開発側への問い合わせという形になるため広報窓口が回答できないことも多く、また、問い合わせをするにしても具体的なCSSプロパティの対応状況を聞くというような形になるため、質問者側にも相応の技術知識が求められる。これらの事情がEPUBの作り方を保守的なものに留める要因となっている。

そこで、当研究会では、ブラウザの表示対応の指標として用いられているCSS Snapshotに対応したテストファイルを作成し、これを外部データの表示に対応しているEPUBビューアに読み込ませることで、各ビューアの技術的な対応状況を明らかにすることを試みた。また、EPUB制作現場のニーズを元とした実務的な表示確認のテストも併せて行っている。

各テストは会員で分担して行い、テストの作成者がその結果をまとめてレポートにする形を取った。以下、このテストに参加した会員の氏名を列挙する。

  • 小形 克宏(Vivliostyle Foundation)
  • 木龍 美代子(メディア木龍)
  • 田嶋 淳(株式会社三陽社)
  • 仁科 哲(株式会社和文)
  • 古門 正明(株式会社デンショク)
  • 村上 真雄(Vivliostyle Foundation)

(あいうえお順/敬称略)

テストに用いたEPUBデータ等は以下のGithubリポジトリで公開されている。

https://github.com/jagat-xpub/epub-css-test

これらのテストが、より自由なEPUB制作の一助となることを望みたい。また、実質的に日本の出版社のEPUBデータ制作の標準仕様となっている電書協EPUB3制作ガイド(以下電書協ガイド)の改訂の議論にも一石を投じられればと願う次第である。(2024年4月23日)